調教日記③
案の定、冴子は午後5時15分ちょうどに社屋から出てきた。
藤谷は喫茶店をでると信号の手前の歩道で、冴子が来るのを待ち、やり過ごしてから後ろについた。
帰りのラッシュにもかかわらず、藤谷は冴子を見失うことはない。
「どうも、直帰のご様子だ」
若いおんなにはめずらしく、寄り道はないようだ。
2つ目の駅で私鉄に乗り換えた。各駅停車だ。同じ車両の隣のドア付近で、冴子の様子を窺う。
「それにしても、そそられるぜ」
私服に着替えた冴子は、白いブラウスに薄茶のジャケットをはおり、グレーの対とスカート。
かえって目立つような地味な服装だ。
時折、見えるブラウスごしの乳房は首からしなやかな線を描き、その張りのよさを誇示している。
尻はタイトスカートに絞られその丸みを露わにしている。ヒップトップは高く、それでいて豊満さを湛えている。
乗り始めてから30分ほど。立っている者も少しずつ減り、無理せず移動ができるようになってきた。
藤谷は移動を始める。冴子の視線を避けながら、同じ車両の反対側のドアに立った。
声をかけられるほどの距離だ。
冴子は、出勤初日の気疲れからか、少し疲れているようにも見える。
落ちきる前の日を見ながら、憂いに満ちた瞳に藤谷の眼光はますます鋭くなっていく。
「くる」
藤谷は根拠のない確信を得た。冴子が自分に気がつくと思ったのだ。
電車で急カーブに入り、冴子はかばんをかばうようにしながらよろけた。
その瞬間、視線が床におち、それをあげたところに藤谷の顔を見た。
「あっ」
さすがに冴子は驚いた様子だったが、藤谷はあらかじめ出しておいた書類を目にしていた。
冴子のわずかな驚いた声が聞こえたかのように、藤谷はちらりと冴子をみやったが、もう一度書類に目をやり、再度冴子の顔を不思議そうに、そして無表情に見つめた。
「本部長さん?ですよね」
「ん?ああ派遣の」
藤谷は、あえて関心のなさを強調する。
「ああ、大久保さんっていったね。家はこっちなの?」
「ええ、次の駅です」
「ああ、わたしもだ」
藤谷は一瞬、神に感謝すらした「間一髪」。チャンスはあちらから転がってきた。
「え?そうなんですか」
「駅から遠いの?」
「いえ、歩いて10分ちょっとです」
「ああ、北口のほうかな」
「いいえ、南口の商店街を抜けたあたりです」
「ああ、私もまったく同じ方向だ」
「そうなんですか」
何か困惑したような表情が素直にでる。
無理もない。初対面同様の者と家路が同じとなれば、気疲れする。
かといって上司となれば邪険にもできない。
「本部長さん。帰りはいつもこんなにお早いんですか?」
「いや、家でやることができてね。ぼくに気を使うことはないよ」
探るような冴子の言葉に気を遣うそぶりを見せる。
「いえ、そんな」
ほどなく電車は駅のホームに滑り込み、ドアが開いた。
「本部長さんは、あの去年できた新しいマンションにお住まいなんですか?」
「ああ、ちょっと失礼。雑誌を買っていくから」と売店に足早に藤谷は歩き出した。
冴子の目線を確認しながら、適当に目に付いた雑誌1冊と、女もののハンカチを買った。
「ここからが勝負どこだ」
と、驚いたことに冴子は階段前で、藤谷を待っていた。

